< 2023/1/15>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■【 The JSLD News 】日本自治創造学会メールマガジン第85号 ■■
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【目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.巻頭言
穂坂 邦夫(財団法人日本自治創造学会 理事長)
2.リレートーク
南 学(東洋大学客員教授)
3.ニュース/情報ピックアップ
4.お知らせ
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1.巻頭言
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「空き家の解消は市町村(基礎的自治体)の責任」
穂坂 邦夫(財団法人日本自治創造学会理事長)
空き家が増加しています。賃貸用などを除いて長期間「人が住んでいない状態」となっている戸数は349万戸(2019年調査)となっています。特に木造一戸建てが240万戸もあり、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年以降は急増する恐れがあり2030年には470万戸と推計されています。
国は「空家対策特例措置法」を改正する方針を固めたようですが実施主体は市町村です。しかし個人の財産権に触れることから、ゴミ屋敷以上に市町村の対応は消極的な姿勢が見受けられます。安全で清潔なまちをつくり、安心する住民生活を維持する自治体の役割を思うともっと積極的にこの問題について取組む必要があります。
空き家の原因は様々ですが、売りたくても売れない状況や取り壊し費用の問題、倒産などによって銀行等の抵当権が設定されているものもあるでしょう。さらには相続など多岐に渡ります。売却可能な都市部でさえ、空き家は急増しています。これらを放置すると所有者が不明になるなど早めの対策が求められています。一方では地域環境が悪化するだけでなく、火災の原因や倒壊の危険など地域社会にとって安心安全な生活を脅かす重大な懸念材料になります。今後の増大が予想されるため、地域の重大な問題として、当事者である市町村自身が積極的に対応すべき課題のひとつです。
空き家解消の手段は売却の可能性を持つ都市部と使い手がない過疎地の空き家ではまったく異なることから2つの地域特性毎に対応策を考えてみたいと思います。都市部における解決策ですが、総務省の調査では都市を代表する一都三県だけでも空き家は約200万戸(2018年)ありますが、そのうち賃貸ではなく住民の方々が高齢者施設に入居したり、住民の転居による住宅が60万戸もあり、年々増加している状況にあります。これらの空き家解消の対策事業については第三セクターで運営して、自治体に対して利益を上げることが出来る果実としてとらえることは出来ないでしょうか。
対策の第一は第三セクターのチーム編成に工夫をする。例えば、協力員として自治体の有識者を充てる。弁護士、土地家屋調査士、行政書士、不動産業者、測量士等に「有償ボランティア」として参加して戴き、持てる知識を活用します。当然ですがチームで知り得た情報の守秘義務は規則等によって十分に担保します。第二は自治体内の空き家のうち、マンションを含め一覧表にまとめます。第三は、その空き家を「何故空き家になっているか」を徹底的に調査する。一般の不動産屋さんでは、極めて困難な調査ですが自治体が主体者となれば容易に出来るはずです。第四は、その調査に基づき「処分方法について関係者と徹底的に話しを詰める」。解体はもとより、これから売却を望む方、賃貸を望む方、あるいは更地にして、そのまま保存をしたい方もいるでしょう。処分の前にも相続問題の解決など様々な協議が求められるかも知れません。
第三セクターは、それらを明らかにすることによって物件毎の対応策を決定する。不動産会社との提携も考えられますが、いずれにしても最終的には仲介料や手数料をそれぞれ徴収します。ビジネスとして成功を果たさなければならないからです。自治体と異なり第三セクターであるため営利事業が可能です。第三セクターが解消の主体者になって、税の負担を出来るだけ減少させることです。
空き家の増大は地域社会に様々な不安を呼んでいますが、発想を変えて取組むことが重要です。空き家の売却が可能となる都市部では厄介なお荷物から「果実を生み出す物件」との意識改革が求められると共に、個人の財産権には触れないとする従来の考え方から「積極的な介入」で平穏な地域社会を確立することに、自治体は変化することが必要です。
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2.リレートーク
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「大きな課題となった公共施設マネジメントの今後の展開」
南 学(東洋大学客員教授)
公共施設マネジメントをすすめるキーワード
老朽化した公共施設を修繕・更新する財源が不足していることが、全国的に大きな政策課題として、認識を広げる契機になったのは、平成26(2014)年に総務省が全自治体に「公共施設等総合管理計画」の策定を要請したことからでした。しかし、その後の展開は、例えば30年後に総面積の3割を削減するというような、マクロ的な目標が提起されただけで、縦割りの組織と予算という壁を超えて個々の施設の統廃合を、個々の部局の責任で進めることが非常に難しく、多くの自治体では削減よりも、むしろ面積増加となってしまったのが実態です。
「拡充」の時代(将来の予想財源が増える)が長く続いたので、それぞれの縦割り部局ごとに、市民の要望を反映した事業予算を確保し、執行してきたのですが、「失われた」数十年では、「いつかは景気も回復する」という期待が崩れ去り、人口減少と経済の衰退は、誰の目にも明らかになって、「拡充」の発想では、対応ができないことが明らかになりました。むしろ、「縮充」(縮小しても、機能は充実するという造語)という発想と実践が必要なのですが、全庁的な発想転換には至っていないのが現状です。
このような「足踏み状態」の中で、公共施設等総合管理計画の策定から、約10年が経過し、施設の老朽化はさらに深刻となり、施設設備の不備が市民の命を奪い、設置責任者である自治体の担当者が業務上過失という刑事責任を問われる事件も起こったのです。
また、将来の財源が減るという現在では、それぞれの部局の事業は、縮小か廃止、あるいは、他部局との統廃合(複合化・多機能化)を行わざるを得ません。これまでに経験してこなかった、部局間の(調整(あるいは対立)が起こるようになるのは必然であり、「縮充」のプラン策定と実践はこれまでに経験のない、難しい課題として突きつけられています。
多くの自治体にアドバイスを行う中で、公共施設マネジメントのキーワードを考えてきましたが、現時点では3つに集約することができます。それは、「時限爆弾」、「縮充」、そして、「因数分解」です。
第1の課題は、老朽化して「時限爆弾」となった公共施設における「安全確保」です。これは、市民の生命と財産を傷つけないことはもちろん、「事件」が起きたときに公務員を刑事犯罪人にしないことでもあります。
第2の課題は、「縮充」で、限られた財源の範囲で、施設関連予算を、縦割り部局ごとではなく、優先順位を明確にして複合化・多機能化による面積縮減と機能拡充を目指すことです。
第3の課題は、「縮充」に取り組むときに、徹底的な施設の機能と利用実態を分析して、複合化・多機能化を目指すことです。そのときに、コロナ禍によって「人を集めることが否定された」ことと、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速した状況を踏まえ、5、10年先の施設のあり方を検討することが必要です。
「時限爆弾」で安全確保が最優先であることを示す
2006年に、埼玉県ふじみ野市のプール事故(女子児童が死亡)によって、市職員の業務上過失致死罪が確定したという事件によって、公共施設の老朽化は住民の命を奪う可能性があるとともに、施設を所有し管理する自治体の管理職が刑事犯罪者(禁錮刑)になる可能性があるという事実が示されたのは衝撃的な事件でした。この事件の裁判所の判決文では、「不備を修繕し,あるいは不備が修繕されない限り本件プールを開設しないという判断をすべきだったのである。そして,その権限と責任を持っていたのは,被告人にほかならない」として公務員の管理責任を明確にしました。
自治体における実態をみると、多くの施設が極めてずさんな管理状態に置かれている状況なので、一つの解決策として、専門事業者に包括的保守管理を委託することが注目されています。人口5万以下の自治体が7割以上という実態なので、十分な技術系職員の配置は難しく、また、力量を身につける機会も少ないからです。
施設設備の保守点検管理業務のほとんどが、毎年個別に外部委託しているので、総合ビルメンテナンス会社に包括的に委託する手法です。地元の事業者が仕事を奪われる、という懸念がありましたが、専門事業者は、全体のコーディネートやデータ把握・蓄積を行うので、仕事を「奪われた」事例も、「ピンハネされた」事例もありません。現在では約30の自治体でトラブルなく導入されるようになっています。
保全データによる優先度判定の実施
保守点検作業を専門事業者に委託し、一元化することで、施設劣化のデータも集約され、劣化の著しい施設から予算対応するという「優先順位」も明確にした自治体も現れるようになりました。
施設の劣化データ収集とともに、利用実態のデータを分析すると、例えば、「公民館を利用している住民はほとんどいない」という事実が示されるようになりました。公民館を使っている方々は、会議室や多目的室を週に1回2時間ほど使いますが、公民館全体を使っている人(団体)は、ほとんどいないという事実がわかります。このようなデータを基礎に、従来の概念を超えて、半分以下の面積でも複合化・多機能化でき、さらに使いやすい施設に集約することが可能だという事例も生まれてきています。
公共施設マネジメントは、決して施設の統廃合による縮小を目的とするものではなく、多くの市民が楽しく交流できる、コンパクトで使い施設に再編成する「明るい」取り組みになる可能性が大きいのです。
南 学(みなみまなぶ)
1953年横浜市生まれ、1977年東京大学教育学部を卒業後、横浜市役所に就職。環境事業局・経済局、総務局を歴任。1989年、海外大学院留学派遣でカリフォルニア大学(UCLA)大学院に留学派遣。帰国後、国際室、市立大学事務局、市長室、企画局など23年間勤務の後、2000年、静岡文化芸術大学助教授に就任。以後、横浜市参与、神田外語大学教授、横浜市立大学理事、神奈川大学特任教授等を経て現職。
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3.ニュース/情報ピックアップ
地方自治に関係する気になるニュースをピックアップします。
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アフターコロナも「地方に移住してテレワーク勤務」は定着するのか
3年間続いたコロナ下での生活で、テレワークという概念はすっかり定着しました。
もちろん、緊急事態宣言発令時には在宅勤務を命じていたものの、その後は有名無実化している企業も多数あるものの、業界によってはテレワークを優秀な人材の採用や引き止めに活用している企業も多く、テレワークが当たり前の企業にとってはもはやテレワークのない雇用はありえない状況になっています。
そんな企業に勤める社員にとっては、わざわざ高い家賃を払って都心近くに住むよりも、家賃の安い郊外、場合によっては新幹線が必要になる距離に住むという選択肢が選ばれやすくなっています。
では、コロナが生活の中に定着し、様々な規制が取り払われても「テレワークで地方暮らし」という生活スタイルは残るのでしょうか。
テレワークが当然の企業では問題ないと思いますが、そのボーダーラインにあるような企業がテレワークを徐々に縮小していったりするとトラブルになりそうです。
★パンデミックの先に コロナ禍、テレワークで移住ライフ 地方再生へ見えた課題
2023年1月20日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20230119/k00/00m/020/190000c
★コロナ その先へ(5)〈働き方〉「都会には戻らない」テレワーク、共存の時代
2023年1月6日 産経新聞
https://www.sankei.com/article/20230106-CGPJZFM5QJKURGPS5URIYYOD6Y/
★自治体64%、テレワーク導入 コロナ拡大、2年で3倍
2023年1月24日 東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/227109?rct=politics
★捨てられなかった学生時代の思い 移住して取り組む「ふるさと」作り
2023年1月7日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASR1545WFQDVUOOB01G.html
★「東京じゃなくてもいい」移住を望む若い世代 失敗しないためには
2023年1月7日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQD034QDQDWOXIE02P.html
★移住先の山村で夢の本屋を開いた2児の母 きっかけは凄腕上司の言葉
2023年1月14日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASR156D11QDPUZOB004.html
★「もう限界」移住失敗した男性の後悔 限界集落で起きた「うわさ話」
2023年1月26日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASR1S0DJNR1KDIFI00S.html
★退職し東京から限界集落へ「移住失敗、もう限界」 一家の絶望と希望
2023年1月26日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASR1S0BMPR1KDIFI00M.html
★都心で再開発ラッシュ オフィス大量供給 テレワーク定着で空室率上昇か
2023年1月24日 産経新聞
https://www.sankei.com/article/20230124-DE2DRA53AFIDXC7ZZ75TPOIAHA/
★高騰続く首都圏マンション、都心の中古は「億ション」目前…買い手は「パワーカップル」中心
2023年1月27日 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230126-OYT1T50330/
★地方移住支援 子どもへの加算金 1人100万円に増額の方針 政府
2023年1月8日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230108/k10013944471000.html
★地方移住で支援金「大盤振る舞い」のお寒い実態 都心回帰が鮮明、3年間の移住支援は結果伴わず
2023年1月22日 東洋経済
https://toyokeizai.net/articles/-/645571
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4.お知らせ
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☆Yahoo!ニュース個人オーサー穂坂邦夫理事長の記事掲載ページのご紹介
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発行:財団法人日本自治創造学会
編集:日本自治創造学会メールマガジン編集委員
東京都千代田区神田佐久間町2−24−301
お問い合わせ: info@jsozo.org
ホームページ: http://jsozo.org
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