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【fromJSLD】日本自治創造学会メールマガジン第81号

< 2022/9/15>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■【 The JSLD News 】日本自治創造学会メールマガジン第81号 ■■

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【目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.巻頭寸言
  穂坂 邦夫(財団法人日本自治創造学会 理事長)
2.リレートーク
  石川 雄章(株式会社ベイシスコンサルティング代表取締役)
3.ニュース/情報ピックアップ
4.イベント情報
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1.巻頭寸言
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           求められる大胆な地方改革

                   穂坂 邦夫(財団法人日本自治創造学会理事長)

 私達が主催する(財)日本自治創造学会の研究大会が3年ぶりに「リアル大会」となりましたが、同時に行われる「改革発表会」も盛況に行われました。様々なジャンルに渡って改革の発表が行われ多大な成果を上げましたが、その一方、少し心配になったことがあります。
 地方自治体を取りまく様々な公共財は高度成長期に建設されたものが大多数です。道路や橋、トンネル、下水道、上水道などの社会インフラと庁舎やスポーツ・文化施設です。
 庁舎の建て替えも行われていますが、ややもすると高度成長期に見受けられたものより大きく豪華な庁舎が目立ちます。ある市の改築された庁舎が「前よりも狭小で、使い勝手が悪い」と感想を述べた市民がいましたが、私は逆に、その庁舎を建設した首長と議会の見識に拍手を送りました。
 社会は人口減少、高齢化の加速など大きな変化をみせています。さらに行政のIT化も加速する状況にあります。庁舎はもとより、道路や上下水道の改修にしても、ややもすると従来の手法を踏襲していますが、人口が減少することを考えれば、抜本的な方策の変更が求められます。多くの公共財は少なくとも20年後〜50年後を見通して改修や新設をしなければならないことを感じながらも、補助金の規定や従来の意識が優先され、「20年、30年前と同じ方法」を取ることが極めて多いのが実態です。
 特に下水道や上水道などの社会インフラの改修は大改革をする必要があります。ややもすると、住民サービスを「現在」ととらえる執行部の体質に対して「議会」は20年後、30年後を見据えた「将来提案」をしなければなりません。
 時代環境の変化に対応出来る議会として、執行部に大胆な改革提案を求める確かな見識に、大きな期待を持っています。
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2.リレートーク
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      「社会インフラの維持管理における持続可能な社会の実現への貢献」

              石川 雄章(株式会社ベイシスコンサルティング代表取締役)

●インフラ管理と現場の現状
 私たちの暮らしを支える道路,鉄道,上下水道などの社会インフラは,国内では多くが高度経済成長期に整備され,すでに60年近くが経過し一斉に老朽化が進行するという課題に直面している。さらに今後,人口が減少していく中で今ある社会インフラの機能を維持していくためには,安全性や経済性などを考慮して戦略的にメンテナンスを行う必要がある。
 その一方で,その過半を占める自治体の管理施設では,急速に進む老朽化に対して安定的かつ持続的にメンテナンスを行う仕組みは十分とは言えず,厳しい財政事情に加え技術系職員が存在しない市町村も少なくない状況下で,その対応は手探りで進められているのが現状であろう。

●大学での研究開発
 私は東京大学大学院情報学環において,「情報技術によるインフラ高度化」社会連携講座(2009年〜2018年)(以下「講座」)の特任教授として,インフラのメンテナンスをテーマにIT活用によるマネジメントの高度化,現場業務の効率化及び人材育成・技術伝承に関する研究に取り組んだ。その考え方や研究成果は,現在私が代表を務めている企業の原点となっている。
 https://arch-adi.github.io/(社会連携講座アーカイブ)
 講座の設立時に掲げた講座の目標「社会的課題の解決を新しいビジネスに」は,以下の4項目であるが,10数年経った今もその考えは変わっていない。
1.コスト & CO2 ↓Down「インフラ管理・運営業務の最適化・効率化・アセット・マネジメント等による長寿命化」
2.安全・安心 ↑Up「点検・補修技術等の蓄積・高度化、定点観測・緊急情報の提供」
3.事業創造 !New「空間情報ビジネス/社会・経済活動支援、Crowd Computing等 ICT市場の創出」
4.国際貢献 *Global「アジアのインフラ整備・災害復旧等に日本は大きく貢献、アジア等の途上国におけるインフラ整備はこれから本格化」
 講座での研究のほかに実施した研究開発も10年間で30テーマに及ぶが、その内容はリアルで現場に根差し実証的であることを重視した。例えば,研究責任者を務めたSIP「空港管理車両を活用した簡易舗装点検システムの開発」の成果は,現在羽田空港の滑走路の管理に利用されている。また,自治体職員による直営点検など自治体に関する研究成果の多くは取り組みが始まっている。
 ご興味のある方は以下を参照いただきたい。

https://arch-adi.github.io/files/researches_2014.pdf(1期)

 https://archadi.github.io/files/%E9%96%A2%E9%80%A3%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%812014-2018.pdf(2期)

●実現に向けた課題と可能性
 建設省、国土交通省で勤務した約20年,東京大学で勤務した約15年を通じて,インフラ分野とIT分野の政策的な課題,学術的な課題に対峙して解決策を考え続けてきたが,そこで得られた施策・制度や研究開発の成果を現実のものとすることは一筋縄ではいかないことも痛感した。
 また,企業の立場で現場の課題にアプローチしてみると,使われている技術や社会の仕組みは現状に合わせて最適化されており,特に現場では混乱のリスクを冒してまで現在の取り組みを見直そうという機運は少ないと感じている。
 一方,将来につながる取り組みも始まっている。例えば,国土交通省が始めたインフラ管理データを開示する取り組みは,幅広く知恵を集めてインフラ管理の最適な手法を開発・提供する基盤となり,運用次第で新しい技術や手法の開発・実用化を加速する可能性を秘めている。

http://www.rirs.or.jp/tenken-db/

●身近なSDGsへの取り組み
 多くの可能性があるとしても,現在のシステムに多額の費用が必要で新規の予算がない,従来業務が忙しいため手が回らない,新しい技術をどう利用してよいかわからない,というのが現場の本音だろう。が,悩んでいるだけでは課題は解決しない。身近なできることから一歩踏み出すことが必要だ。
 島根県で実施している直営点検は,取り組みを始めた当時は他に類を見ない初めての取り組みであったが,島根県及び市町村の職員が自ら学びながら主体的に課題に取り組み,地域の中に社会インフラの維持管理に必要な人材と仕組みが根付いた。
 私も企業の立場で,従来システムの課題(高価で使いにくい等)を解消した社会インフラの維持管理のためのシステム基盤SIMPL(Smart Infrastructure management Platform)の研究開発を行い複数の自治体で運営している。
 このSIMPLが目指したのは、(1)システム更新費用が不要,(2)多様なデータ(画像,センサ等)に対応可能,(3)開発費用0円で利用料のみ,(4)最新の優れたサービスを常時利用可能,というシステムである。
 まだ認知度は低いが,2018年の運用開始時には管理施設7,000件、管理データ60,000件だったが,2022年には,管理施設80,000件,管理データ1,000,000件と拡大しており,福井県などで先駆的な取り組みも始まっている。

https://customers.microsoft.com/ja-jp/story/1469913651938847427-fukui-prefectural-government-azure-ja-japan

●終わりに
 私自身,長年政策と学術の立場から社会インフラに関する課題解決に携わってきたが,現実の課題解決に当事者として貢献したいとの思いから、数年前にインフラ、AI、ICT分野の最新のテクノロジーと高度なナレッジを有する技術集団の会社ベイシスコンサルティングを立ち上げた。
 官僚,研究者,非営利団体などの経験を経て、その集大成として全力で取り組む所存である。同じ思いを持つ方々と協力して,社会や地域における企業の役割を問い直し,次世代に適応した柔軟で発展性のある社会システムの実現と将来を担う自主性のある人材の育成を通じて,持続可能な社会の実現に貢献したいと考えている。

石川 雄章 (いしかわ ゆうしょう)
(株)ベイシスコンサルティング 代表取締役 兼 北海道大学 数理・データサイエンス教育研究センター客員教授

1985年、東京大学大学院土木工学修了。建設省入省。同省道路局企画課課長補佐、高知県理事(情報化戦略推進担当)(CIO)、国土交通省東京国道事務所所長、東京大学大学院情報学環「情報技術によるインフラ高度化」講座特任教授、北海道大学数理・データサイエンス教育研究センター特任教授、NPO法人PI-Forum理事長(Founder)など多彩な経験を積んで、2021年10月に代表取締役に就任(現職)。官、学、民の経験を経て、産(民間企業)で「ともに価値を創造し、人を育てる」をmissionに、サスティナブルなビジネスの実現に取り組んでいる。
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3.ニュース/情報ピックアップ
地方自治に関係する気になるニュースをピックアップします。
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コロナ流行による旅客減から一息ついたかのこのタイミングで赤字JR路線の存廃を巡る議論が活発になっています。
100円を稼ぐためにいくら費用がかかるかを示す「営業係数」が公表され、千葉県の久留里線の一部では1万5546円かかることなどもわかり、多くの地元自治体が危機感をあらわにしています。
鉄道は当然、公共性の高い事業であるものの、鉄道利用者が減少した背景には、本数が少なく不便な鉄道を地元の住民が使わなくなったという事情があります。また、海外からの引き揚げ者も含めて多くの人々が農村に居住していた終戦直後の時代と、高度経済成長をはじめとする大きな社会変化を経た現在の人口分布との間で、必要となる鉄道路線のデザインを国家的な観点からも見直していく必要はあろうかと思います。

★赤字ローカル線に廃線圧力 「JR頼み」もはや限界
2022年7月24日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1835Z0Y2A410C2000000/

★「千人未満」目安に存廃協議 地方鉄道、国主導で見直し
2022年7月25日 産経新聞

https://www.sankei.com/article/20220725-RNEG5ABUBZLTNNHWL426HGP3CQ/

★コロナで大手も赤字 地方鉄道の経営、急速に悪化 「1000人未満」見直し協議
2022年7月26日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20220726/ddm/012/010/125000c

★なぜいま?国交省のローカル線見直し提言 沿線自治体の本音と期待
2022年7月25日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20220725/k00/00m/020/338000c

★地方鉄道の存廃、来年度協議 利用促進策やバス転換
2022年7月25日 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/191776?rct=politics

★ローカル線、存廃協議の新ルール 1日平均1000人未満で
2022年7月25日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA241DE0U2A720C2000000/

★ローカル鉄道とは 車普及で乗客減続く
2022年7月26日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA255KX0V20C22A7000000/

★赤字ローカル線「100年先を見据えた町を」 廃線回避の新たな形は
2022年7月28日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASQ7X5WFXQ7VOXIE00R.html

★JR東、地方66区間赤字 計693億円 収支初公表
2022年7月29日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20220729/ddm/001/020/148000c

★JR東日本、在来線3分の1相当が赤字…100円稼ぐのに1万5千円超かかる区間も
2022年7月29日 読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220728-OYT1T50286/

★JR東赤字区間 「地域衰退拍車」 沿線住民、廃線に危機感
2022年7月29日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20220729/ddm/041/020/023000c

★「赤字路線だからやめたい、というわけではない」JR東日本会見
2022年7月28日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20220728/k00/00m/020/110000c

★ローカル線存廃へ国関与 JR西社長「歓迎」 課題も
2022年8月3日 産経新聞

https://www.sankei.com/article/20220803-I7NOPZZ4DZNO3DVIGF34FPILSU/

★ローカル線、自治体の背中押す数値基準 調整の動き鈍く
2022年8月8日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA013E80R00C22A8000000/

★赤字ローカル線は消えるのか 存廃議論に欠けている視点
2022年9月8日 産経新聞

https://www.sankei.com/article/20220908-YUV5PRCMTRLONC22MJFZQIBRQI/

★赤字ローカル線「公共交通の役割果たせていない」 JR西日本社長
2022年9月15日 産経新聞

https://www.sankei.com/article/20220915-GFUVJVIQLRLGXA2VLPWBTCFQJ4/

★JR62路線の赤字区間、26%に災害リスク 存廃議論に影響
2022年9月11日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE125WS0S2A810C2000000/

★鉄道廃線から36年、代替バスも廃止 赤字耐えきれず 地域任せ限界
2022年8月18日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASQ8D65WJQ83UPQJ00X.html

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4.イベント情報
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発行:財団法人日本自治創造学会
編集:日本自治創造学会メールマガジン編集委員
東京都千代田区神田佐久間町2−24−301
お問い合わせ: info@jsozo.org
ホームページ: http://jsozo.org
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