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【fromJSLD】日本自治創造学会メールマガジン第78号

< 2022/6/15>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■■【 The JSLD News 】日本自治創造学会メールマガジン第78号 ■■

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【目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.巻頭寸言
  穂坂 邦夫(日本自治創造学会 理事長)
2.リレートーク
  榊原 智子(恵泉女学園大学客員教授、ジャーナリスト)
3.ニュース/情報ピックアップ
4.イベント情報
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1.巻頭寸言
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自治体における健全財政の維持は地方議会の責任

                       穂坂 邦夫(日本自治創造学会理事長)

 行政サービスの拡大と健全財政の維持は両極にあります。地方と異なり、国家は国債の発行権がありますから、MMTの考え方もあって、インフレの恐れのない限り国債の発行による積極的な財政運営が是認されるという意見が根強くあります。
 国防費の増額や、コロナの影響から国民を守るためには手厚い国家のサービスが必要とされ、地方にも「行政サービス拡大」を求める住民の声が高まっています。しかし、地方財政は「健全財政の維持」が鉄則です。地方は国家と異なり、債権の発行が出来ないからです。今は忘れられていますが、財政が破綻した「北海道夕張市」は職員の給与や退職金のカットはもとより、住民に対する行政サービスの大幅な削減が行われました。小中学校や保育所の統廃合だけでなく、住民負担の拡大も余儀なくされ、子を持つ家庭がサービスの低下に耐えきれず市外に流出し、大幅な人口の減少を招く結果となりました。
 住民サービスの拡大は住民の好感を呼ぶものですが、歳出の削減はサービスの低下を招き、住民の不満に直結します。特に住民は、自治体財政の仕組みを理解していない為に「健全財政の維持」が「消極的な行政運営」として誤解され、首長の人気が低下する大きな要因となります。ややもすると首長はサービスの拡大に走り出してしまいます。
 しかし、これらの誤解を無くし、健全財政の維持を図る責任は首長よりもむしろ地方議会にあります。言い換えれば自治体の生命線とも言われる財政収支の均衡は、首長よりも地方議会が大きな役割を背負っています。何故なら議会は予算を決定する権限があるからです。
地方議会はサービスの拡大を首長に求めがちですが、与野党や会派内の立場を超えて、健全財政の維持について住民に理解を求め、首長に歯止めをかけなければならない重要な役割を担っていることを改めて認識する必要があります。
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2.リレートーク
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「子どもが世界一少ない国」で取り組む「こどもまんなか社会」

             榊原 智子(恵泉女学園大学客員教授、ジャーナリスト)

 厚生労働省が6月に公表した人口動態統計で、2021年の出生数が81万1604人となり、統計のある1899年以降で最少だったことがわかった。出生数は2019年に約86万人に減り「86万ショック」と騒がれたが、新型コロナウイルス禍の影響もあって21年は81万人に。国の予測より減少が加速していることも、衝撃を大きくした。

 少子化が長く続き、ある種の「慣れ」や「諦め」も広がるが、人口変動の異変が本格化するのはこれからだ。1970年代まで出生数が多く正三角形だった人口ピラミッドは、現在、年少人口は減少しているものの、生産年齢人口のボリュームがあるため「提灯型」を維持している。しかし、出生数の急減が続けばあと20,30年で老年人口が大きく膨らみ、年少人口がきわめて少ない「逆ピラミッド型」の社会が到来すると予想されるためだ。

 人口ピラミッドが逆転すると、何が起きるのか。人口学者でない私には詳細はわからないが、年金制度をはじめとする社会保障制度は半世紀前のピラミッド型の人口構造を前提に設計されており、こうした制度がバランスを維持できなくなることは想像できる。

 2020年国勢調査は、総人口に65歳以上の高齢者が占める割合が5年前の26.6%から28.6%に上昇し、「高齢人口の割合が世界で最も高い水準」にあることを示した。人口減少と高齢化の進行は国家的関心となっているが、同調査で私が最も注目したのは、15歳未満の子ども人口が11.9%まで減少し、韓国(12.5%)やイタリア(13.0%)より少ない、「世界で最も低い水準」になっているという指摘だった。

 出生数が多かった1960年ごろまで子どもは全人口の3割超を占める主流派だったが、約1割の“少数派”に転落して、今では「子どもが世界で最も少ない社会」になっている日本。この状況は、無意識にも子どもへの関心が低い世論を常態化し、「子どもを産み育てにくい社会環境」を一層深刻にするのではないかと危惧されるからだ。

 フランスは多様で手厚い子育て支援の施策を行い、そのためにGDP比3%程の莫大な公的資金を投入している。フランスが「ベビーブーム」に沸いていた2007年、同国の政府高官にインタビューして、これほど寛大な家族政策を続ける理由を尋ねた。高官は「少子化で子どもが減ってしまえば、子育てしにくい社会になるからだ」と説明。子どもはそもそも手がかかるし騒ぐし、大人には“迷惑な存在”だから、みなが子育てしていてお互い様と寛容でいられる社会の維持が必要なのだーーと言われた。

 日本では近年、赤ん坊が泣くと近隣住民がすぐに警察に通報する。電車で赤ちゃんがぐずると冷ややかな目線が集まる。街中のベビーカーを「邪魔だ」と蹴る人がいる・・・。子育てする人たちが肩身の狭い思いをする現状があり、「子育てしにくい社会」への転落が加速しているように感じる。

 今年の通常国会では「こども家庭庁」設置法やこども基本法など、子ども関連の重要な法律がいくつも成立した。子ども政策の司令塔となる新しい庁を創設し、「こどもまんなか社会」を作っていくことが国会で合意され、これに正面から反対する声はないだろう。

 とはいうものの、少数派に転落した子どもたちの不利を押し返し、本当の「こどもまんなか社会」を実現するには大きな財源確保も含めた本格的な改革を要するはずだ。それだけの覚悟があっての「こどもまんなか社会」なのか。期待を込めて見守りたい。

榊原 智子(さかきばら のりこ)
恵泉女学園大学客員教授、ジャーナリスト

三重県生まれ。上智大大学院博士課程前期修了(国際学修士)。1988年に読売新聞社入社し、浦和支局、政治部、解説部、生活情報部などの記者を経て、社会保障部次長。調査研究本部主任研究員。社長直属教育ネットワーク事務局専門委員。2022年2月に早期退職し、草の根提言団体「子どもと家族のための緊急提言プロジェクト」の事務局長。
現在、内閣府の少子化社会対策大綱推進検討会、厚生労働省人口部会などの委員を務める。
著書に「『孤独な育児』のない社会へ——保育で拓く未来」(岩波新書、2019年)ほか。
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3.ニュース/情報ピックアップ

地方自治に関係する気になるニュースをピックアップします。
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高齢化と人口減少が進む中、いつまで今の投票のやり方を続けるのか

参議院議員選挙の真っ只中ですが、現在の自署式・オフライン型の投票の仕組みが、高齢化や人口減少、ICTの発達やグローバル化といった社会の変化に直面して大きく揺らいでいます。
1年経てば誰もが1歳歳を取るという意味では高齢化は大変平等です。しかし、歳を重ねれば、いずれ足腰は弱り、免許は返納せざるを得なくなり、視力も衰えます。いずれは誰もが障害者になりうるのです。
また近所の歩ける範囲にあった投票所も人口が減れば統合され、ますます気軽に投票に行けなくなります。
こんな中、政府はマイナンバーカードの普及を進め、個人認証のシステムを整備し、国家の根幹である納税まで確定申告や支払いのオンライン化によって成し遂げているのです。当然にオンライン投票も技術的には可能なはずです。
もちろん、投票の秘密が維持できず、他者から目の前で特定候補者に投票するように強要されるという懸念は理解できます。
しかしそんなものは現在の仕組みにおいても防げてはいません。投票所近くの集会所に集まって一人ずつ順番に投票に行き、最初の人間は投函せず票を持ち帰り、二番目は皆の前で候補者名を書かされ、その票を投函する代わりに用紙を持ち帰り……を繰り返して最後の人間が二枚まとめて投函する、という手口は現在でも可能と思われます。そもそも福祉施設などにおける不在者投票での不正が立件されるケースは跡を絶ちません。
事実上不正が可能であっても現在の制度が続けられるのは、事後的に罰することができるからです。そうであればネット投票も不正があれば厳しく罰する仕組みにすればよいだけではないでしょうか。

★「投票できないのね」怒る有権者 ただ謝るしかない選管職員の苦しみ
2022年6月1日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASQ5Z2QDSQ1MULEI001.html

★日本のガラパゴス投票は変わるか
2022年5月7日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA18AGU0Y2A410C2000000/

★減る投票所、「選挙離れ」防げ 有権者減や災害対応、対策模索
2022年6月23日 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/185086?rct=politics

★障害がある人も投票しやすい環境を 点字がない公報、字幕がない政見放送…進まない法改正
2022年6月25日 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/185673?rct=politics

★高投票率の地域、なぜ投票 地元のため? 政策選択? 周囲の目?
2022年6月20日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASQ6K6KBYQ6GPTIL00F.html

★高投票率でアピール? かつて日本一のミニ村、60人の声は届くのか
2022年6月20日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASQ6M51BCQ6BOIPE01P.html

★子ども消え、雑草茂る保育園「あと5年で」 投票率7割の声、どこに
2022年6月20日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASQ6M51HVQ6BOIPE01Q.html

★最高裁裁判官、在外投票巡り「違憲」
2022年6月2日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/DA3S15312465.html

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4.イベント情報
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発行:日本自治創造学会
編集:日本自治創造学会メールマガジン編集委員

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