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【fromJSLD】日本自治創造学会メールマガジン第65号

< 2021/5/15>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■■【 The JSLD News 】日本自治創造学会メールマガジン第65号 ■■

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【目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.巻頭寸言
  穂坂 邦夫(日本自治創造学会理事長)
2.リレートーク
  田中 秀明(明治大学公共政策大学院教授)
3.ニュース/情報ピックアップ
4.イベント情報
  いよいよ今週!第13回研究大会オンライン開催【ライブ配信】
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1.巻頭寸言
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自治体の知恵と力を発揮する

穂坂 邦夫(日本自治創造学会理事長)

 コロナ感染を予防するワクチン接種が始まった。地方自治体はワクチンの確保が遅れ、国の供給計画が不明確であったため、接種準備が進まず悩まされ続けてきた。国民の批判が国に寄せられたのも当然と言える。
 様々な経過の中でワクチン確保のメドがつき、今度は実施主体である自治体の責任が問われることになった。国家の使命は国民の生命と財産を守ることだと言われているが、自治体にとっても住民の命を守ることは最大の責務である。完全とは言わないまでもコロナ禍にあって国民の命を守るには「ワクチン」に頼ることしかできない現状では、1日も早いワクチンの接種が求められる。
 今こそ地方自治体は様々な知恵と創意を発揮して、住民を守り、期待に応えなければならない。国のためではない。自治体にとって最大の役割を果たすことになるからだ。
 首長はもとよりだが、議会も傍観していてはならない。議員一人一人が知恵を出し、首長をバックアップする必要がある。ワクチン接種は自治体の力を住民に示すと共に、自治体の必要性や分権をアピールする絶好の機会でもある。
 未来のために、首長・職員・議員の力の結集を心から期待したい。

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2.リレートーク
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デジタル改革と地方の情報システム

田中 秀明(明治大学公共政策大学院教授)

 去る5月12日、菅義偉首相が力を入れるデジタル庁の設置などを含むデジタル改革関連法案が国会で成立した。その姿勢は評価するが、組織を作っても機能するとは限らない。情報(IT)戦略は歴代の政権が重要課題として取り組んできたが、成果は芳しくない。特に、地方自治体との関係に焦点を当てて、問題の根源と課題を考える。

 政府は、2000年のIT基本法を出発点として、様々な戦略や計画を作り、マイナンバー法など法令も整備してきた。国連の世界電子政府ランキングでは、日本は第14位(2020年)である。人口規模も考えれば、それほど遅れてはいないが、2014年の第6位から下落しており深刻だ。更に、行政のオンライン利用率では先進諸国中最低である。IT基本法以来20年経ったが、国民は便利さを実感していない。新型コロナウイルス感染症に関し導入された10万円の給付手続などでIT化の遅れが露呈した。電子申請の方が窓口での申請より時間がかかる事態も生じた。

 なぜ日本が「IT敗戦」ともいわれる状況になったのか。第1の理由としては、戦略や施策の評価、問題と原因の分析がないことが挙げられる。安倍政権の「世界最先端IT国家創造宣言」などでは、デジタル強靱化社会の構築を進めるなど計画ばかりである。「デジタル化失敗の20年」のレビューがないのだ。システムは、間違いを見つけて直すことが必要であるが、行政の伝統である無謬性原則では成功しない。

 第2にシステム化の問題である。システムに合わせて現在の業務や法手続きを見直すことが前提となるが、行政では、業務をそのままにしてシステム化しようとする。だから、複雑となりコストもかかる。省庁の情報システムは削減されてきたが、まだ約800もあり、統合の除外も多い。国民の利便性に直結するのは地方自治体であり、戸籍や住民票などの地方自治体のシステムを統合することがデジタル改革のカギでもある。現在は、国と地方のシステムは別で、さらに地方も自治体毎にシステムは異なる。

 そこで、政府は、自治体ごとに異なる情報システムの統一化に向けて、今般のデジタル改革関連法案に、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案」を含めている。2020年度第3次補正予算では約1700億円の標準化のための予算も措置した。現在多くの自治体は、別々に大手IT会社や関連会社にシステムやソフトを発注している。その結果、システムの仕様がばらばらで、データの連携が難しい。そこで、政府はこの仕様を数年かけて統一しようと考えている。

 こうした取組みでようやくデジタル改革が前に進むと思ったが、あやうくだまされそうになった。仕様は統一されるかもしれないが、各自治体がそれぞれのベンダーに発注する仕組みは温存されるのだ。例えば、住民票のシステムは全国統一の1つのシステムがあれば十分であるにも関わらず、自治体毎につくることを認めている。仕様が統一されれば、A社のシステムからB社のシステムに乗り換えることができるかもしれないが、現在年間約5千億円かかっている自治体のシステムコストは全体としては効率化できないだろう。また、仕様が統一されるとしても、システムは別なのでデータがうまく連携するのか不安もある。行政にはITの専門家が乏しく、ビジネスを失いたくないベンダーの言うがままなのだ。

 電子政府については、行政制度が類似する韓国が参考になる。韓国は、20年前に日本を見習い、電子政府戦略を立てたが、今や日本を抜き、世界電子政府ランキングで第1位になった。97年の経済危機を契機として、大統領が国家大改革としてIT化を推進したことが出発点である。

 韓国では、国・地方を通じてシステムは統合されている。従来、韓国も省庁別にシステムが構築されていたが、今では、国家情報資源管理院が約1500に上る省庁の情報システムを統合管理し、セキュリティ対策も一体的に行う。ITシステムは、省庁が情報化振興院(政府の司令塔)の助言を受けて開発するが、その実際の管理運用は国家情報資源管理院が担う。地方自治体の行政システムは地域情報開発院(自治体の共同出資で設立)が開発し、自治体のほとんどの情報システムをクラウドに置き共同利用している。また、行政情報共同利用センターを通じて、国・地方そして民間がデータを交換・連携できる。こうした結果、各自治体は、セキュリティを含めIT業務から開放されている。つまり、自治体毎のシステムではないのだ。

 日韓の自治体システムのコストの相違を分析した報告書(財団法人自治体国際化協会(2010)「韓国で電子自治体が急発展した鍵〜全国的に一つの自治体標準システムを共同開発、共同運営するメリット」)によると、システム導入費と運営維持保守費(年間)は、日本の3,632億円に対し、韓国は83億円である。日本の自治体数は1847であり、韓国は248である。1つの自治体当たりの費用は、日本の1.97億円に対し、韓国は0.33億円である。韓国の人口が日本のおよそ半分であることも考えても、日韓のコストの差は非常に大きい。韓国が効率的なのは、国レベルで統一的にシステムが構築されるとともに、運用・維持保守も統合運用、全ての自治体が同一システムを使用、最新技術による改善、ほとんどがウェブ基盤の新しいシステムだからである。

 日韓の相違については、地方分権の程度が異なるといった説明もなされている。そうかもしれないが、システムを別々につくることが本来目指す「地方自治」と言えるのだろうか。システムに限らず、人口が急速に減少する状況では、上下水道などのインフラや各種行政サービスを自治体別に整備・提供することは非効率であり、納税者の負担を高める。そもそも、人口数千、数万の自治体で、独自にシステムやインフラを整備することは、専門的な職員の不足からできなくなっている。

 行政のデジタル化では、今般のコロナ禍を契機として、日本の政治・行政が変われるかが問われている。納税者の視点も考えて、地方自治体のシステムをどのように構築すべきか、我々は考える必要がある。

田中 秀明(たなか ひであき)

明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授。東京工業大学で工学学士・工学修士を取得後、1985年に旧大蔵省に入省。同省の他、内閣官房、内閣府、外務省、旧厚生省等で勤務。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで修士(社会保障政策)、政策研究大学院大学で博士(政策研究)を取得。
主な著書に、『人口動態変化と財政・社会保障の制度設計』(共著、日本評論社、2021年)、『官僚たちの冬』(小学館新書、2019年)、『財政と民主主義』(共著、日経新聞、2017年)、『日本の財政』(中公新書、2013年)、『民主党政権失敗の検証』(共著、中公新書、2013年)、『財政規律と予算制度改革』(日本評論社、2011年)等がある。 

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3.ニュース/情報ピックアップ

地方自治に関係する気になるニュースをピックアップします。
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人が欲しがるものが欲しい? コロナワクチン争奪戦に見る集団心理とマスコミ事情

キャンセル分のワクチンを巡る高齢者の争奪戦が加熱しています。
あれほどワクチンの副反応の恐怖を煽っていたマスコミにとっては、予想外の結果なのかもしれませんが、自分の娘や孫には子宮頸がんワクチンを打たせなかった高齢者の皆さんも、実際にワクチンが効いているのを見てしまい、自らの命がかかってくると背に腹は代えられない模様です。
さて、人が欲しがっているものを自分だけ持っていないことを極端に恐れる日本人の特性なのかわかりませんが、昭和の時代のコンサートチケット予約のように日本中の高齢者が電話をかけまくっています。そんな中で市内在住のドラッグストアチェーンの社長が「裏口予約」していたとか、首長が自らを「医療従事者」扱いしてキャンセル分を接種していたということで炎上しています。これほどの殺到は容易に予想できることなので、先着順ではなく抽選制にすればいいというごもっともな意見もありますが。
首長や職員がワクチンを打つことに対しては、「特権」や「上級国民」といった批判も多く渦巻いていますが、医療従事者はもちろんのこと、接種会場での受付や誘導を行い不特定多数の「未接種者」に接する職員がワクチンを打っていることは高齢者自身にとってもメリットが大きいものではないかと思います。また、コロナ対策の司令塔である首長はワクチンを率先して打つべきだと思いますので、キャンセル分を仕方なく、ということでなく堂々とルールを作るべきではないでしょうか。
そもそも何でこんなにキャンセルが出るのかといえば、大規模会場での「集団接種」とかかりつけ医での「個別接種」との両方を重複して予約する高齢者が後をたたないことが要因になっているようです。
去年もトイレットペーパーの買い占めが起き、それをワイドショーで見た高齢者が早朝からドラッグストアに行列を作るということがありました。ワクチン争奪戦もオールドメディアにとっては、行列を映して品不足を煽り、必要以上に予約が殺到してさらなる品不足、そして、「抜け駆け」を見つけては袋叩きにして溜飲を下げる、というお馴染みのフォーマットに従ったメディア・イベントの一つなのかもしれません。

★特権か、必要か 相次ぐ首長の「こっそり接種」 大切なことは?
2021年5月14日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20210514/k00/00m/040/331000c

★埼玉で町長や職員100人が優先接種 医療従事者として
2021年5月13日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASP5F75QWP5FUTNB01C.html

★町長「医療従事者に準じる」 優先接種した首長の理屈
2021年5月13日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASP5F6H50P5FUTIL00M.html

★教職員のワクチン優先接種を提案 文科相
2021年5月14日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASP5F6H50P5FUTIL00M.html

★スギ薬局会長夫妻のワクチン優先、背景に何が 忖度し過ぎ
2021年05月14日 ITメディア

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2105/14/news138.html

★ワクチン接種 予約のキャンセル相次ぐ “予約の重複控えて”
2021年5月14日 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210514/k10013031001000.html

★日本のワクチン予約は欠陥 トイレ紙買い占めとの共通点
2021年5月13日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASP5D55G9P5DULBJ00J.html

★混乱相次ぐワクチン予約「先着順よりも“抽選制”を」 経済学の専門家が分析
2021年5月13日 ABEMA TV

https://times.abema.tv/news-article/8657966

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4.イベント情報
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いよいよ今週!第13回 2021年度日本自治創造学会研究大会オンライン開催【ライブ配信】

[大会テーマ]
変革は地方から
〜コロナを超える地方の知恵〜

日時:2021年5月20日(木)・21日(金)

参加申込期限:2021年5月18日(火)

参加費:会員5,000円(年会費2,000円・2日間大会参加費3,000円)
    ※大学院生会員参加費2,000円(年会費2,000円・2日間大会参加費無料)
    非会員6,000円(2日間大会参加費)
    ※大学院生非会員参加費2,000円(2日間大会参加費)

▼お申込み・プログラム等の詳細はこちら▼
 http://jsozo.org/

お問い合わせ・事務局TEL03−5846−9227

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発行:日本自治創造学会
編集:日本自治創造学会メールマガジン編集委員

東京都千代田区神田佐久間町2−24−301

お問い合わせ: info@jsozo.org

ホームページ: http://jsozo.org
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