地方から未来を真剣に考える。

メールニュース

メールニュース一覧

--

【fromJSLD】日本自治創造学会メールマガジン第57号

< 2020/9/15>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■■【 The JSLD News 】日本自治創造学会メールマガジン第57号 ■■

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.巻頭寸言
  穂坂 邦夫(日本自治創造学会理事長)
2.リレートーク
  吉田 諭史(世界銀行グループ<地球環境ファシリティ>上席環境専門官)
3.ニュース/情報ピックアップ
4.イベント情報
  第12回研究大会中止及びオンラインセミナー(会員限定)の開催について
******************************************************************

1.巻頭寸言

******************************************************************
「自治体は“基本特性+非営利独占的サービス事業体”です」

 穂坂 邦夫(日本自治創造学会理事長)

 新聞報道によると千葉県内では昨年の台風によって被災した家屋の修繕や改築がいまだ完了していないという。
 遅れているのは大工さんの手不足が主な理由だそうです。
 仮に、担当する自治体がこの問題を放置しているとしたら大問題です。台風は避けようもない天災です。当該自治体は直ちに他の地方自治体に呼び掛け、大工さんの招聘を依頼する使命があります。当然、遠くからの出張業務となると宿舎等は行政の責任で確保する必要があるでしょう。
 自治体の役割は、弱い人も強い人も共生できる地域をつくると共に(基本特性)、利益を求めず、住民を守るサービス事業体です。しかも、公的サービス機関は地域にひとつだけで、いわば独占的事業体です。もとより工事契約は補助金等を除いて民・民契約になるのが当然です。
 特別な事情がない限り、天災による被災家屋をただ放っておくことは許されません。一歩踏み込んだサービスを提供すべきです。私達は、もう一度自治体の役割を再確認する必要があります。首長・議会・幹部職員のリーダーシップを期待しています。

******************************************************************

2.リレートーク

******************************************************************
「SDGsとアフターコロナの社会変革」

 吉田 諭史(世界銀行グループ<地球環境ファシリティ>上席環境専門官)

 持続可能な開発目標=SDGsをご存知の方も多いと思いますが、一度おさらいしてみましょう。2015年に国連総会で全会一致で採択された「持続可能な開発に関する2030アジェンダ」決議に示された17のゴール(究極目標)がSDGsです(これに169のターゲットが付随)。2030年の目標年まで残り時間10年しかない中、新型コロナパンデミックにより達成が難しくなったといわれています。ただ、10年後の達成の有無よりもそのためにどれだけ経済・社会の変革ができたか、が重要だと思います。

 中身に目を向けると、貧困削減や健康などのゴールはどのような意味を持つのでしょうか?実は、SDGsは「相互に関係し、統合され、分けられない」ゴールです。極論すれば「ゴールXに貢献しています」というアプローチ(自分のやっていることとゴールとの紐づけ)は意味がありません。2030アジェンダの前文 に次のような原則が書いてあります。「SDGsは統合され、不可分で、経済・社会・環境の持続可能な開発の3面をバランスさせたもの」「SDGsの相互関係と統合的な性質は新しいアジェンダの目的の達成を確実なものとするために極めて重要」「2030アジェンダ全体を通じてこの野心を実現できれば、全ての人の生活が大きく向上し、世界がよりよいものに変革される」。つまり、17のゴールは独立しているのではなくすべて密接に関係しています。これを無視してゴールを恣意的に選んで対応すると、他のゴールへの悪影響(トレードオフ)を生じ、相乗効果(シナジー=統合的解決)の機会を逸することになります。例えば、途上国で石炭火力発電を作ると、今は安いコストでエネルギーを供給でき経済発展に寄与しますが、気候変動や海洋酸性化など将来を含めた負の影響が大きくなります。

 ではどのように対処すればよいのでしょうか?実は、2030アジェンダにはSDGsを実現する方法(=How)が書いてないので、自分たちでHowを考える必要があります。SDGsの性質からは、トレードオフ最小化とシナジーの最大化、つまり統合的課題解決が不可欠ですが、一主体ではこれができないため、ゴールをまたいで関係者の協働・連携が不可欠です。20世紀型の個別最適(=縦割り)な政策・ビジネスは通用しません。協働(パートナーシップ)を促進し縦割りを排除し(例:行政や企業等の内部、行政と企業、行政・企業同士の間)、共通の利益を追求することが必要です。そして、こうした協働を形成しやすい場づくり、組織の内外で協働の枠組みをつくることが重要です。

 一方、2030アジェンダは国家間で合意された経緯もあり、地域との関係が分かりにくいです。政府も2016年に「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置しましたが、地域の直接的な巻き込みがなかったため、当初は地域のSDGsに対するオーナーシップの醸成ができなかったかもしれません。しかし、SDGsは地域に落とし込まないと実現できません。例えば、健康、水、教育などのゴールは中央政府の政策が影響しますが、最終的に現場の地域や自治体が実行する部分が大きいです。SDGsという雲の上のゴールを地域の特性(資源や制約、プライオリティ)に合わせてローカル化することが極めて重要で、地域の腕の見せ所です。そして、地域でもゴール全体の向上を目指すことが重要で、地域でこれができなければ日本全体でのSDGsも実現できません。理想は、行政や企業などの主体が縦割りで個別に動くのではなく、協働し計画・実行していくことですが、現実には困難があるため、首長や自治体が、SDGsと地域を一体的に捉えて関係者を動かす必要があります。そして地域間での協働もそうしたリーダーシップが必要です。

 日本では新型コロナパンデミックでデジタル化の遅れなど様々な課題が浮き彫りになりました。一方で、今後単にコロナ前に戻るのではなく、こうした課題を克服する千載一遇のチャンスでもあります。例えば、テレワーク(職)、遠隔教育・医療などを定着させ、地方でも都会と同レベルの質を確保することで(地方居住の制約を取り除くことで)、人とお金が地方にも流れる変革ができるかもしれません。都心に仕事がある人でも週や月の半分以上は地方に居住する生活も普通になるでしょう。デジタル化が進み時間とお金が捻出できれば地域の経済活動も増加し、地域産業の担い手も増えてくるかもしれません。こうした社会変革を前述したSDGsのアプローチと組み合わせ進めることで、元来地域が有する豊かな自然、食や文化を生かしながら地域全体の価値・魅力を向上できるはずです。地域の未来を左右する「アフターコロナの社会変革」を目指す中で、SDGsを地域課題を解決する羅針盤として使っていただければ幸いです。

※原文はこちらからダウンロードできます。英語ですがぜひご一読ください。

https://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=A/RES/70/1&Lang=E

吉田諭史(よしださとし)世界銀行グループ(地球環境ファシリティ)上席環境専門官
大学院卒業後、環境省、外務省等を経て、現在、世界銀行グループにてアジア・アフリカ地域の環境プロジェクト等を担当。国内では自動車の環境対策や気候変動対策全般を、国外ではアジア太平洋地域におけるSDGsの実施・協力に関する国際交渉、G20や国連気候変動枠組条約の交渉などを経験。都市社会工学修士及び法律外交学修士を取得。専門は、都市計画、環境政策、国際交渉等。

******************************************************************

3.ニュース/情報ピックアップ

地方自治に関係する気になるニュースをピックアップします。

******************************************************************
「デジタル庁」で自治体のデジタル化は一気に進むのか?

 菅新内閣の一丁目一番地の政策が「デジタル化」です。
 平井卓也デジタル改革相は今月中にもデジタル庁の準備室を立ち上げるとして休日返上で突貫工事を進めており、来年中にもデジタル庁が設置されるとの報道もあります。
 そして、特別定額給付金のオンライン申請の不手際を引き合いに、地方自治体のシステムの標準化やマイナンバーカードの普及も一気に進めようという動きが加速しています。
 さて、デジタル化の前には、「システム」と「慣性」の2つの問題が立ちはだかっています。自治体ごとに住民票の記載内容も異なっている中で、各自治体がオーダーメードで作り上げてきたシステムを標準化する作業は、メガバンクのシステム統合以上の困難が待ち構えているのかもしれません。しかしながら、それ以上に前例踏襲の「慣性」の方こそが難題で、自治体で電子決済やペーパーレス化が普及しないのも、システムの対応以上に、使う人間が抵抗を示していることが課題なのです。
 その意味では、トップダウンで「エイヤ!」で物事を進める新内閣のスピード感が、この先、自治体でも要求されてくるのではないかと思います。システム担当は辛いですが。

★統治機構改革、「デジタル庁」を突破口に 菅新政権 政策を問う(2)
2020年9月19日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64073340Y0A910C2MM8000/

★デジタル化への集中投資に1158億円
2020年9月25日 産経新聞

https://www.sankei.com/politics/news/200925/plt2009250048-n1.html

★自治体のシステム、25年度末目標に標準化 菅首相が行政デジタル化部会で表明
2020年9月25日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200925/k00/00m/010/094000c

★河野行革相「地方巻き込み」作戦スタート 国への職員派遣に大阪府や群馬県など呼応
2020年9月25日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200925/k00/00m/010/019000c

★環境省、省内手続きの押印廃止 河野行革相の要請受け
2020年9月25日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASN9T644VN9TULBJ00P.html

★「デジタル庁」月内に準備室
2020年9月21日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200921/ddm/002/010/131000c

★【独自】デジタル庁、「時限組織」で来年設置へ…「デジタル敗戦」挽回狙う
2020年9月21日 読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20200921-OYT1T50018/

★デジタル予算、要求段階で一元化 平井デジタル相
2020年9月20日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64096730Q0A920C2000000/

★マイナンバーカード申請書 未取得者に送付へ 普及率向上目指す
2020年9月25日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200925/k00/00m/020/265000c

★相変わらず紙、対面、押印… テレワーク進まず官僚の不満が続出
2020年8月12日 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/48421

★なぜ自治体のシステムはバラバラなのか 楠 正憲(国際大学GLOCOM 客員研究員)
2020年8月3日 日本経済新聞

https://comemo.nikkei.com/n/n669cff7269d7

******************************************************************

4.イベント情報

******************************************************************
≪第12回研究大会中止及びオンラインセミナー(会員限定)の開催について≫

 先に延期で御案内を申し上げました「第12回日本自治創造学会研究大会」は、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、極めて残念ですが中止することに致しました。
 参加申込みを戴きました皆様をはじめ、御案内を致しました方々に誠にご迷惑をお掛けいたしましたが、何卒ご理解を賜りたくお願い申し上げます。
 つきましては、大会に代わる代替え事業と致しまして当学会では初めて「コロナ時代と地方の役割」をメインテーマにオンラインセミナー(別紙参照)を会員限定で配信することに致しました。この機会に是非、当学会の会員となりオンラインセミナーをご視聴いただければ幸甚に存じます。会員入会ご希望の方は、ホームページ(http://jsozo.org)の入会申込みフォームよりお手続き下さい。折り返し、オンラインセミナーを視聴いただけるURLを御案内いたします。

 穂坂 邦夫(日本自治創造学会理事長)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:日本自治創造学会
編集:日本自治創造学会メールマガジン編集委員

東京都千代田区神田佐久間町2−24−301

お問い合わせ: info@jsozo.org

ホームページ: http://jsozo.org
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

--