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【fromJSLD】日本自治創造学会メールマガジン第56号

< 2020/8/15>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■■【 The JSLD News 】日本自治創造学会メールマガジン第56号 ■■

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【目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.巻頭寸言
  穂坂 邦夫(日本自治創造学会理事長)
2.リレートーク
  野口 緑(大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学 特任准教授)
3.ニュース/情報ピックアップ
4.イベント情報

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1.巻頭寸言

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「GoToトラベル事業の功罪」

 穂坂 邦夫(日本自治創造学会理事長)

 国が行っているトラベル推進事業は国と地方の役割分担(分権)を考える上で大きな課題をなげかけました。役割分担の明確化(分権)です。
 仮に、この事業を国が推進を決定し、目的と基本的な原則を明らかにし、財源の交付と、地方の裁量権を認めた上で、都道府県に実施する権限を委ねたとしたらどうでしょうか。地方は一定の期限の中で直ちに実施する所もあれば、感染者の動向によって実施を延期して行う自治体もあるでしょう。さらに全国単位で実施するところもあれば、区域を近隣の自治体間に限定したり、あるいは地域内だけで行う自治体もあるかも知れません。少なくとも、準備不足の中で全国を一律的に実施した現在の事業の姿とは異なり、自治体の知恵を活かした様々な形で実施されたことは間違いありません。
 国民のために国も地方も有識者もマスコミも、現在の行政システム改革の声を上げることが強く求められているのではないでしょうか。
 コロナ対策を通じて、顕在化した税金のムダ使いを是正する「国と地方の役割分担の明確化」をもう一度考えてはいかがでしょうか。
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2.リレートーク

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「内臓脂肪の不思議と特定健診制度がめざすもの」

 野口 緑(大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学 特任准教授)

 メタボリックシンドロームに着目した「特定健診」がスタートして10年余り経過する。メタボリックシンドロームという言葉に対する国民の認知率は100%に近いが、いわゆる「メタボ健診」の目的や、なぜ内臓脂肪を重視するのかは十分に知られていない。

 内臓脂肪とは、腸をぶら下げている腸間膜についた脂肪のことで、消費エネルギーを上回る量の食事を摂取すると、最後はすべて中性脂肪に作り変えて、内臓脂肪細胞に備蓄する。内臓脂肪は、食糧不足下にあっても活動が続けられるように人類が発達させた、いわば自前の食糧貯蔵庫なのだ。飢餓の時代を生き延びるためのこうした仕組みが、これまで人類が経験したことのないほどの飽食の現代においては、むしろ体に悪影響を及ぼすことが明らかになっている。

 具体的にいうと、一定のサイズ以上に大きくなった脂肪細胞からは、末梢血管を収縮させて血圧を上昇させてしまう物質や、インスリンの働きを阻害して血糖を上昇させてしまう物質、血液を固まらせやすくする物質など、いずれも心筋梗塞や脳卒中を引き起こす原因になるものばかりである。しかし、内臓脂肪が小さくなると、不思議なことにこれらの物質は出なくなり、血圧も血糖も元に戻り、血管のダメージも回避できる。

 「一定のサイズ以上」は研究で明らかになっており、臍周囲断面の脂肪面積100cm2以上とされているが、これはCTスキャンでないと測定できない。そこで簡易に推測する方法として腹囲を用い、男性85cm、女性90cmを超えると内臓脂肪が過剰である可能性が高く、同時に、血圧や血糖、中性脂肪が高いと、内臓脂肪から出ている物質の影響だと推定できる。その場合、内臓脂肪を減らせば、こうした血管病のリスクファクターは改善する。

 ここで言う、血管病のリスクファクターとなる血圧や血糖の上昇とは、医学的管理を要しない予備群レベル(例えば、収縮期血圧が140mmHg未満、HbA1cが6.5%未満など)であっても複数あれば血管障害を進ませ、少なくとも10年を経た後に心筋梗塞や脳卒中につながることが報告されている。

 こうした医学的根拠を用いて、2008年からスタートした特定健診で腹囲測定が導入され、そのまま放置すれば心筋梗塞や脳卒中を発症する恐れのある人のうち、内臓脂肪を減らす生活習慣を選ぶだけで、健康寿命を延伸できる人に対して積極的に介入しようというのがこの制度の狙いである。

 この新たな制度において、生活習慣の改善を誘う保健指導方法や指導者のスキルが成否の鍵になるが、これまでの「〜しましょう」型の指導では効果が不明確である。我々が全国43自治体と共に行った保健指導効果の検証のための大規模臨床試験(J-HARP研究)では、我々がモデル化した保健指導方法によって、これまでの方法と比べて統計学的にも有意に行動変容が起こることが立証できた。このモデルを先行的に用いてきた兵庫県尼崎市では、これまで県や近隣市よりも高率であった急性心筋梗塞の標準化死亡比が、特定健診開始5年間では県や近隣市より下回る成果を上げている。

 100歳人口が増加し、定年延長や社会保障費の増嵩が見込まれる中、健康寿命の延伸は我が国の喫緊の課題である。そうした中において、1978年から進められてきた我が国の健診制度における疾病予防の考え方「早期発見・早期治療」が、30年を経て「行動変容に向けた早期介入(保健指導)」に大きく転換されたことは極めて重視すべき点であるが、事業を進める市町村ではあまり認識されていない。健診受診率が低ければ、より優先的に介入すべき保健指導対象者を選べない(市町村国保の健診受診率37.2%(2017年度、厚生労働省))。保健指導では、今までどおりの病院への受診勧奨と、「食べる量を控えましょう」「歩きましょう」では保健指導の希望者が減少する(特定保健指導実施率25.6%(前出同じ))。

 新型コロナウィルス感染症の重症化に国民の関心が集まるが、ゆっくりと重症化する循環器疾患についての関心はそれほど高くない。発症率、死亡率は感染症よりも循環器疾患でより高い。コロナ渦において、国民の活動量の低下がより内臓脂肪の蓄積につながっているのではないかと危惧する。様々な生活スタイルの変更が余儀なくされる中、内臓脂肪の蓄積量は、人としてバランスよく生きているのかを教えてくれる一つの目安になる。超高齢社会が進む中、特定健診や保健指導は極めて重要なツールではないかと改めて思うとともに、推進する市町村でのより積極的な取り組みに期待したい。

野口 緑(のぐち みどり)
大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学特任准教授、神戸大学医学部非常勤講師、大阪府、大阪市特別参与。

1986年尼崎市入庁、保健所、保健企画課を経て、職員部係長、市民サービス室課長、市民協働局部長、企画財政局部長を務める。全国に先駆けた独自の戦略、保健指導方法で、在任中、市職員の循環器疾患現職死亡ゼロや市民の心筋梗塞死亡率減、約13億円の医療費の伸びの抑制を実現。2011年厚生労働省「健診・保健指導のあり方に関する検討会」構成員、2013年より、大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学招聘准教授、2020年3月尼崎市を退職した後、現職。

専門は生活習慣病予防、健康行動理論、ヘルスプロモーション、都市健康政策、公衆衛生学。保健師。

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3.ニュース/情報ピックアップ

地方自治に関係する気になるニュースをピックアップします。

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コロナ移住? 東京一極集中はテレワークで解消できるのか?

4月に緊急事態宣言が出たときには、「3密」になる東京を避けて地方に人が分散する「コロナ移住」が起こる、なんてことも言われていましたが、あの時に起こったのはテレワークの準備も十分にできていない中での緊急的な対応だったようで宣言解除後は徐々に都心への通勤者も増え、満員電車も戻ってきました。
しかしながら、業種によってはテレワークが十分に機能する企業もたくさんあったようで、ここに来て都心のオフィスを引き払う企業が増えているようです。これらの企業にとって、テレワークへの移行はもはや不可逆な変化となっているものと思われます。
感染防止のために無理をしてテレワークをしてみても長続きしないものですが、都心の高い家賃を払わなくても済むということになると、がぜん経営側もやる気を出しているのではないかと思います。やはり世の中を変えるのは「お題目」ではなく「金」の力ですね。

★都心のオフィスに目立つ「空き」…7月、5か月連続で上昇の2・77%
2020年8月22日 読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20200822-OYT1T50253/

★都市部地価、コロナで暗転 下落地点が9倍に
2020年8月21日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62922300R20C20A8EA2000/

★トヨタもカルビーも…テレワーク本格化 居酒屋、タクシー業界は深刻
2020年8月22日 産経新聞

https://www.sankei.com/economy/news/200822/ecn2008220009-n1.html

★東京圏の人口増鈍る 伸び率4年連続減、流入も陰り
2020年8月5日 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62340820V00C20A8EE8000/

★コロナ逆手、移住促進 茨城県、魅力発信に力 東京感染リスクやテレワーク普及で
2020年8月12日 茨城新聞

https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=15971446533867

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4.イベント情報

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発行:日本自治創造学会
編集:日本自治創造学会メールマガジン編集委員

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