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【fromJSLD】日本自治創造学会メールマガジン第53号

< 2020/5/15>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■■【 The JSLD News 】日本自治創造学会メールマガジン第53号 ■■

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【目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.巻頭寸言
  穂坂 邦夫(日本自治創造学会理事長)
2.リレートーク
  鈴木 大裕(土佐町議会議員)
3.ニュース/情報ピックアップ
4.イベント情報

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1.巻頭寸言

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「コロナ感染対策と分権」

  穂坂 邦夫(日本自治創造学会理事長)

 コロナ感染対策は国と地方の役割分担(分権)の明確化が必要なことを明らかにした。国は国の役割を果たし、地方がすべき役割は地方に委ねることだ。
 政府は緊急事態宣言の発出後における地方の施策に「国と協議する」と付け加えて、自治体の役割に制限を加えたが(東京都の対策は国との協議のため4日間も実施が遅れた)、結果的には地方に全てを委ねる他なく「発出後は全て地方に責任がある」と言わざるを得なかった。
 平時には見過ごされてきたが「国と地方の役割分担を明確にする」ことが必要不可欠であることを緊急対策における事実が証明している。

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2.リレートーク

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「学びを止めない!」という罠

 鈴木 大裕(土佐町議会議員)

 「早くオンライン授業の整備を!」
 「夏休みを潰して授業時間の確保を!」
 「9月入学制の導入を!」 
 コロナ休校が長引く中、世間では子どもの学習機会の保障について活発な議論が行われている。裏を返せば、「学びが止まっている」ということだろうが、不測の事態にこそ教育の成果とは表れるもの。そう考えると、学校閉鎖でいとも簡単に止まってしまう学びとはいったい何なのか。コロナ危機があぶりだしたのは、そんな従来の教育の「脆弱さ」だったのではないだろうか。
 ネット上には、学校なしでは学ぶことができず、暇を持て余す子どもを憂う親の声が溢れているが、私たちはそれこそが教育の「成果」と真摯に受け止めざるを得ないだろう。「学びを止めない!」というスローガンの下、オンライン授業で一刻も早く学びを再開しようと焦る気持ちもわかるが、真に問うべきはこれまでの「学び」そのものだ。

「教育」はもともと誤訳だった

 それはなにも今に始まったことではない。2018年にちょうど100歳で亡くなった教育哲学者の大田堯によれば、「教育」という言葉はもともと日本語にはなく、開国時に西洋から入ってきた「エデュケーション」の誤訳だった。ラテン語の語源には、そもそも「教える」という要素はなく、代わりにあるのは、「養う」や「引き出す」という意味だ。それが、教えるという「上にある者が下の者に施す」との字源をもつ要素とすり替わったことが、従来の講義中心型の授業スタイルと日本の学生の学びに対する受け身な姿勢に繋がっていると大田は指摘する。しかし、人の指示を待っているようでは世界で通用しないことがわかっているからこそ、国は「アクティブラーニング」(今は「主体的・対話的で深い学び」と言っているが…)への転換を打ち出してきたのだろう。

魚を与えるか、釣り方を教えるか

 人に魚を与えればその人は一日生き延びることができるが、人に魚の釣り方を教えればその人は一生生きていくことができる、という中国のことわざを思い出す。魚を与えるか、釣り方を教えるか…。もちろん、オンライン授業では学び方を教えられないというわけではない。ただ、学びの本質は変えずに媒体だけ変えても意味がない。
 また、夏休みや冬休みを潰して授業時間を確保しようとする動きもあるが、そんなことをしたら逆に勉強嫌い、学校嫌いの子どもたちを大量生産してしまう。9月入学制度という意見もある。子どもたちと学ぶ喜びを分かち合い、彼らに学び方を教えることを目標に据えて9月に仕切り直すのなら良いが、単に時期をずらして従来の教育をしたところで意味はない。

「復旧」ではなく「当たり前」を問い直す機会に

 学びの本質を問わずにオンライン授業の整備を急ぐとどうなるだろうか。運動会などの学校行事や多くの子どもたちが再開を心待ちにしている部活は必要ない、学校は行かなくても問題ない、だから学校も各地域には必要ない、教員は最低限いればよし、オンライン授業は民間企業に任せればいい…となり、教育は商品化され、学校や教員は存在意義を失い、地域を担う人を育てる場所であったはずの学校は過去のものとなってしまうのではないだろうか。
 AI時代に求められるのは、自ら考え、豊かな想像力とあきらめない精神力を持つ人間と言われている。コロナ危機で試されたのは医療や経済、福祉体制だけではない。教育も同じだった。何も考えずに「復旧作業」を進めるのではなく、このコロナ危機を、私たちが一度立ち止まってこれまでの「当たり前」を問い直す機会にしたいと、心から願う。

鈴木 大裕:土佐町議会議員

1973年、千葉市出身。99年米国スタンフォード大大学院修了。2002年から6年半、千葉市の公立中学で英語教諭として勤務した後、市場型教育改革について学ぼうと再渡米。フルブライト奨学生としてコロンビア大大学院博士課程に入学。2016年に人口4千人弱の高知県土佐郡土佐町に家族で移住。19年4月、同町議会議員選挙でトップ当選。教育を通した町おこしに取り組む。著書の『崩壊するアメリカの公教育 日本への警告』(岩波書店)は10刷を重ねる。

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3.ニュース/情報ピックアップ

地方自治に関係する気になるニュースをピックアップします。

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コロナ対策の最前線、保健所で働く職員を守るには

 新型コロナウイルス感染症は新規感染者が大幅に減少し、緊急事態宣言が段階的に解除され、ひとまず「第一波」は収束に向かう方向ではあります。
 しかしながら、この数ヶ月で浮き彫りになった多くの課題のうち、明らかに失敗だったと言えるのは、対策の最前線に立たされた保健所の現場職員の疲弊ではないでしょうか。
 連日のワイドショーで恐怖感を煽られた住民から、「帰国者・接触者相談センター」である保健所には受話器を置く間もないほどの電話が殺到し、まず第一声でなかなか繋がらなかったことの苦情を言われ、PCR検査の条件に当てはまらない人からは脅迫めいた罵声を浴びせられ、職員たちは日々メンタルを削られてきました。
 また、自宅療養者や濃厚接触者に対する健康観察や医療機関からの検体の回収・調査機関への搬送、陽性患者の搬送など、コロナ対策に関する様々な業務が保健所に集中し、土日も休みなく勤務してきた保健師も少なくありません。
 さらに追い打ちをかけたのが、これまで厚労省関係の連絡網で温存されてきたファクスによる報告です。東京都ではピーク時には新規患者が一日200人を超え、これを31の保健所から集計する中で、多数の集計漏れや二重計上があったことが明らかになりました。
 この問題に対し、大阪府では、サイボウズを活用した「新型コロナウイルス対応状況管理システム」を作成し、また、和歌山市では、濃厚接触者等の健康観察にスマートフォン用アプリ「健康日記」を導入した効率化を図ってきました。そして、厚労省では今月内にも、感染者情報の一元管理システム「HER—SYS」を稼働させるとしていますが、このシステムがどこまで使い物になるかが、想定される第二波・第三波に備え、保健所で働く職員を守ることができるかの鍵になるのではないでしょうか。

★大阪市保健所 コロナ対応職員、月平均60時間残業 昨年から倍増 市民から罵声も
2020年5月10日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200509/k00/00m/040/154000c

★新型コロナ 保健所職員、残業の山 過労死ライン超え相次ぐ 月198時間のケースも
2020年5月23日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200523/ddm/041/040/118000c

★保健所職員の1割、4月の残業100時間超 コロナ対応で過酷な最前線 山形
2020年5月16日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200516/k00/00m/040/022000c

★大阪市保健所、コロナ専門グループ新設へ 50人規模 職員負担、長期化懸念
2020年5月17日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200516/k00/00m/040/182000c

★コロナ感染者集計ミス123人 情報収集、もろさ露呈 31保健所→ファクス1台
2020年5月22日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200522/dde/041/040/032000c

★都の感染者なぜ報告漏れ? 集計はファクス、連携できず
2020年5月14日 朝日新聞

https://digital.asahi.com/articles/ASN5F7F8WN5FUTIL01M.html

★「昭和のオフィスか」 最前線の医療現場に強いられる「手書きでファクス」 新型コロナ
2020年4月28日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200428/k00/00m/040/010000c

★感染経路調査、電話相談…クラスター対応最前線の保健所 解除「油断は禁物」
2020年5月14日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200513/k00/00m/040/237000c

★軽症のコロナ患者、スマホで経過観察 職員の負担減狙う
2020年5月17日 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASN5J460LN51PTIL00N.html

★新型コロナ 濃厚接触・帰国者向け活用 アプリで体調追跡 保健所業務軽減にも 和歌山県立医大研究者らが開発
2020年5月14日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200514/dde/041/040/024000c

★新型コロナ 感染者情報一元的に管理 新システムの運用開始へ
2020年5月11日 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200511/k10012424471000.html

★感染者情報一元化システム導入へ 厚労省、月内にも ファクス、手入力改め
2020年5月12日 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20200512/k00/00m/040/214000c

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4.イベント情報

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発行:日本自治創造学会
編集:日本自治創造学会メールマガジン編集委員

東京都千代田区神田佐久間町2−24−301

お問い合わせ: info@jsozo.org

ホームページ: http://jsozo.org
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